
探鳥マナーについて
日本野鳥の会では、野鳥を観察することで、自然環境に興味を持ってもらい、
環境保全につなげようと考えています。そのために探鳥会などを通じて探鳥を普
及する活動を行ってきました。しかし最近は、野鳥を見ること或いは野鳥を撮
影することが最終目的で、その手段を選ばないという風潮があります。日本野
鳥の会の会員である皆さんがそうでないことは十分承知していますが、新しく
会員になった方もいますので、探鳥する時のマナーについて書いてみます。
●繁殖の妨害をしない
多くの野鳥が3月から7月に繁殖します。巣を作り始めた時点で野鳥はその
場所に執着します。その行動を利用して野鳥の撮影しようとする人が見受けら
れます。しかし、人への警戒から、「巣作りを途中でやめてしまう」「親鳥が巣
に入れずに抱卵途中の卵が冷えて死んでしまう」「巣の中で待っている雛に親鳥
が餌を運べない」といったことが起こるのです。野外で野鳥の巣を見つけた場
合は、長時間観察を続けると繁殖の妨害をすることになるので慎みましょう。
影響がないように思えても、ハシブトガラスなどの外敵に見つかる要因になる
こともあります。雛が待つオオルリの巣を背にして、虫をたくさんのくわえた
親鳥の撮影に夢中になるなど、もっての外です。卵から出て2週間ほどで親鳥
と同じ大きさになる小鳥にとって、僅かな時間でもとても貴重な時間なのです。
調査や研究のために営巣中の撮影をした場合でも、その写真を安易にホームペ
ージやブログなどに掲載することは慎むべきでしょう。
●餌付け、音声でのおびき寄せ撮影をしない
公園などで餌を撒いたり、さえずりの音声を流したりして撮影する人を見か
けます。野鳥の生息はそれを支える植物や小さな虫たちの上に成り立っていま
す。餌付けはその食物連鎖を無視した行為で、生態系のバランスを崩してしま
うものです。また、鳴き声をコミニュケーションの手段としている鳥にとって
人工的に音声を流すことは彼らの生活をかく乱させます。
自然や野生生物の撮影はドキュメンタリー。やらせであってはなりません。
撮影のための餌付け等は、私たちの会の基本精神である「野の鳥は野に」の精
神を逸脱し、自然の摂理に反して野鳥をペット化、私物化しようという行為で
す。野鳥をペット化したら、その瞬間から「野」鳥ではなくなってしまいます。
そういった撮影や見物をするのは「野の鳥」との付き合い方としてとても恥ず
かしいこと、という認識を、会員の私たちから世の中に認知させていきたいも
のだと思っています。
●自宅での給餌について
野外での探鳥とは別に自宅の庭やベランダで野鳥に餌を与えて観察を楽しむ
方法があります。しかし、この場合も野生生物に餌を与えることになりますの
で、給餌は「冬期だけに限る」「上限を決めて野鳥が給餌に依存しないように
する」などの気配りが必要です。また餌を待つ野鳥の糞が近隣の洗濯物を汚す
などの事例もありますので注意が必要です。
直接的に餌を与えるよりも、ビオトープ(自然再生)や水場の設置による野
鳥の誘致をお奨めします。
●農地などに入らない
野鳥は森林や河川のほか、種類によっては水田や畑も生活の場所にしていま
す。田んぼに飛来するタゲリなどがその代表ですが、農地で野鳥を観察する場
合にも心配りが必要です。農地に立ち入らないことは当然のことですが、休耕
中・収穫後の田畑も立ち入ってはいけないのです。また、農道に長時間駐車し
て観察するのも慎んでください。田畑も農道も他人の土地であり仕事の場なの
です。住宅地を通る時には、双眼鏡や機材を使わない、リュックにしまって歩
く配慮も時には必要です。
●野鳥の情報を流さない
探鳥のトラブルの多くは、人が多く集まることによって起こります。「どこど
この森に巣を作った」「どこどこの畑に珍しい野鳥が来た」など特定の野鳥の情
報は流すべきものではありません。珍しい野鳥を見つけても公開の義務は全く
ありません。人の情報は個人情報として守られるのが現代ですが、野鳥の個別
情報も守られるべきです。「自分で見つけた野鳥の情報を秘密にする」ことも大
切なのです。「農地で珍鳥が見つかり翌日には狭い農道に車が50 台も駐車する」
「野鳥の巣がある木の根元に50 人もが取り巻いて観察する」そんな事態が自
分の家で起こったらと想像してください。野鳥への思いやり、人への思いやり、
そして状況を見極める賢明さが大切なのです。
(支部長 鈴木茂也)
日本野鳥の会神奈川支部報 はばたき
2012年7月号 *支部からのメッセージ
*7月24日 一部改訂
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