2015年5月2日土曜日

次世代に残したい神奈川の自然 第2回 二子山周辺

鈴木茂也



 神奈川県の航空写真を眺めると、東側には横浜や川崎の市街地が目立ちます。そこから目を移して南下させると三浦半島にいくつかの大きな緑地帯の存在が分かるでしょう。その中でもひときわ緑が濃く、広く見えるのが二子山や森戸川の上流部を含む緑地帯です。この緑地帯のおよそ4km×3kmほどで面積は1000haにもおよび、逗子市、葉山町、横須賀市にまたがっています。

●自然環境の特徴
面積が広い;前述したように広大な一塊の緑地帯です。
4つの河川の流域から成り立っている:緑地帯の中心部は森戸川の上流域にあたりますが、周辺部は田越川(たごえがわ)、下山川(しもやまがわ)、そして高熊川の源流部が含まれます。高熊川は源流部が急峻で東京湾に流れ込んでします。
緑地帯の中に人工建造物が少ない:中心部には住居やなく、他の人工建造物が少ないのが特徴です。目立つ建造物としては三浦半島中央道路の橋梁が2ケ所と砂防ダムが1ヶ所にあります。
中心部は森林環境で周辺部は里山環境:森戸川の上流域は地形が複雑で歴史的に見ても田畑の耕作がされなかった地域です。周辺部は集落と接し、谷戸では古くから水田が耕作されてきました。
森林の半分が人工林:中心部では工作がされていない反面、林業が盛んでした。スギやヒノキの植林地がおよそ半分の面積を占めていますが、1970年代以降は伐採がされていません。残りの半分は雑木でケヤキ、エノキ、ミズキ、ヤマザクラ、コナラなどの夏緑樹、アカガシ、シロダモ、ヤブキッケイ、タブノキなどの常緑樹が混生する二次林です。現在は森林の管理が手付かずで、よく繁茂していますが、必ずしも生物が多様性であるとは言えない状態です。鳥類では1970年頃まではホオジロが多く生息していましたが、現在は繁茂した森林を好むヤマガラやアオゲラなどが増加しました。
開発が進む周辺部:かつての周辺部は農耕地と集落と二次林がモザイク状に存在する環境でサシバの繁殖も確認されていました。近年は交通の便が良い北側の地域から大規模な開発が行われ山林が失われてきましたが、ここ数年は農耕地などが住宅地に代わる小規模な開発が行われています。今世紀になってサシバの渡来が途絶えましたが、農地の減少と耕作放棄による荒廃が原因と考えられます。里山に多かった両生類、爬虫類やモズなども減少しました。

●保全の状況や土地の管理状況
逗子市では緑の基本計画の中で現在の緑地率を保持していくことを決めています。また「森戸川上流域の一体的な保全」を「最重点みどりづくり施策」のひとつにあげています。葉山町でも同様で「3つの最重点施策」のひとつに「二子山地区の緑地保全及び利活用の推進」をあげています。横須賀市では緑地帯の周辺部の一画である田浦梅の里を「継承の森」に指定しました。
しかし、この緑地帯のほとんどが民有地です。その中でもデベロッパー(いわゆる開発業者)の所有地が多く含まれ、それらの土地が今後どのような形で活用されていくかが、将来的な保全を左右しそうです。現在のところ中心部では大規模開発の予定はなく、デベロッパーも保全や生物多様性を軸に活用していく姿勢がホームページなどからも読み取れます。横須賀側の周辺部は市街化区域も多く、大規模な宅地開発も計画されていますし、道路の建設も都市計画決定されており、周辺部の開発は進みそうです。

 今後の課題としては緑地帯の一部が指定を受けている近郊緑地保全地域(首都圏近郊緑地保全法による)をより保全を強化させるために近郊緑地特別保全地区に格上げすることがあげられます。
 環境管理では、中心部の森林ではスギやヒノキの人工林の間伐・部分皆伐・樹種の変換など、二次林の下草刈りなどの手入れによる森林環境の管理が課題です。
 周辺部の谷戸では農地の再生(特に水田)と二次林の管理が生物多様性を向上・保全する上で必要と考えられます。