2015年4月19日日曜日

営巣地での観察・撮影の注意



 先月号ではリアルタイムでの野鳥の出現情報の取り扱いについて書きましたが、今月号では営巣地での観察や撮影のことについて注意を喚起します。営巣地での人の活動は卵や雛の生死にもかかわる重要な事柄ですので、常に注意を払って真剣に考える必要があります。
キジバトなどの一部の例外はありますが、野鳥の繁殖活動はモズやエナガなど早いのもでは3月頃から始まり、ウグイスなどは7 月下旬頃まで続いています。この期間は注意を怠らず、観察や撮影によって繁殖の妨害をしないように心がけるのが最低限のマナーです。

 繁殖活動はつがいの形成に始まり、巣作り、産卵、抱卵、育雛、巣立ち、巣立ち後の巣外での育雛という段階があります。雛が巣立つまでの間、親鳥は営巣場所を中心に生活をすることを余儀なくされます。観察する立場から言うと、営巣場所が判明することで、容易にその鳥を見たり撮影したりすることが可能になるわけです。しかし、営巣場所に人が長く留まることはリスクを伴います。野鳥は一般的に人に対して警戒心を持ち、距離をおいて生活しています。営巣期に人が近付いても逃げない鳥に出会うことがありますが、人を警戒していない訳ではありません。警戒しつつも巣作り、抱卵、雛への餌運びといった行動への執着心が警戒心よりも勝っているのです。そのバランスは種によって違いますし、同じ種でも個体によって異なります。また、つがいの内の雌が特に警戒心が強かったり、その逆の場合だったりすることもあります。観察や撮影のために巣に近付き過ぎ、それが長時間にわたると繁殖の失敗につながることがあります。

 数年前に、ある林道沿いに営巣したサンコウチョウは、1ヶ月近くも抱卵を続けた末、繁殖に失敗しました。このつがいは雄が警戒心の強い個体でした。考えられる繁殖失敗の原因は2つあります。一つは卵が無精卵だったことですが、もう一つは抱卵の途中で卵が冷えて死んでしまったことです。この営巣地では、林道沿いに営巣したこともあって多くの観察者や撮影者が絶えず毎日来ていたようです。撮影した人がブログなどで情報を流すことで、さらに多くの人が晴れの日も雨の日も、朝から夕方まで訪れるようになりました。抱卵交替時に巣に近付いてきた雄を撮影者が追いかけ回し、抱卵できなかったために発育途中の卵が死んでしまったのが原因と私は考えています。卵が孵化しないで存在し続けると、次の行動に移せないのが野生の鳥の定めなのです。また、よくありがちなのは「鳥が虫をくわえたまま、じっと動かず姿を見せてくれた」と言う現象です。この場合は、巣に雛がいて餌を運んできた親鳥が、観察者を警戒していつまでも巣で待つ雛に近付けなかったことを意味しています。スズメほどの大きさの小鳥では抱卵期間(卵を温め孵化するまでの日数)は2週間程度、育雛期間(雛が孵化してから巣立ちまでの日数)は2週間程度です。巣立ちの時には雛はほぼ親鳥と同じ大きさになっているのですから、1分1秒が野鳥にとっては貴重な時間なのです。野鳥の生態を知る上で繁殖生態を知ることは重要ですが、個人の楽しみのために野鳥の生活を脅かすことがあってはなりません。先月号で書いた野鳥の生息情報も、繁殖に関することの場合は、その取扱いを特に注意しなければなりません。近年では野鳥の密猟者が、巣の近くでたむろする観察者や撮影者を目印に巣を見付け、夜間などに訪れて雛を持ち去るケースもあると言います。

 野鳥が営巣している場合は、できる限りその場を早く離れましょう。探鳥会でも昼食を予定した場所で繁殖の兆候が見られた場合、急遽予定を変更して移動することがあります。バードウォッチングにはルールブックはありませんが、野鳥の生活を脅かさないのがマナーです。そしてそのマナーはひとり一人が、自分の良心と相談して決めることなのです。     
  
(支部長 鈴木茂也 はばたき2014年11月号 支部からのメッセージより)